和田信一郎の土の科学情報
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土壌学

■土壌学は,文字どおりは土に関する科学ということですが,伝統的に農学部で開講されており,その結果内容は,土の地球科学的側面に加えて,農業の基盤としての土に関することに重点が置かれています.土壌学というのは農学部においてもマイナーな分野であり,私が勤める大学では,年間の受講生はたかだか40名位でした.このようなマイナーな分野の(日本語の)教科書の提供にはいろいろ難しい面があります.
■まず,土壌学は無機地球科学,物理化学,植物学,微生物学などに結構深くかかわる分野ですので,著者にとっては,関連の内容を一人でカバーするのはなかなか難しいです.一方,出版社にとっては,発行部数が限られますので,収益があまり期待できない分野です.このような理由で,日本における土壌学の教科書は,多くの執筆者がそれぞれの専門分野を執筆したもので,ページ数の割には価格が高く,改訂は数年ないし10年に一度,というようなものでした.多くの著者がかかわることには,専門家が記述するので内容には信頼がおける面がありますが,難易度や,各章間の連携には問題があることが多いようです.また,改訂が頻繁に行われないというのは,新しい成果や統計データを盛り込みにくいという問題があります.
■そこで全章を私一人で書いて,自分のHP上で公開することにしました.自分の専門領域は限られていますので,専門外の部分では内容の正確さにはちょっと問題がある可能性もありますし,章間の難易度もきちんとそろっていない可能性もあります.しかし,問題があれば直ちに改訂できるという利点があります.今後,できるだけこまめに加筆訂正していく予定です.
■この教科書の内容は,多くの市販の教科書と大きく異なるわけではありませんが,少し工夫した点があります.多くの教科書では,最初の方に,土の化学,土の生物学,土の物理学などの章がありますが,ここではそれらの章で書かれている内容は全て,土の各論の中に埋め込みました.たとえば,土の酸性の問題は森林土壌の章で解説しましたし,酸化還元の問題は,土壌生物と水田土壌の章に埋め込みました.
また,土の性質の測定途いう章を設け,土のpHや陽イオン交換容量などの測定法を具体的に書きました.土の性質というのは,大部分が操作的に定義されたものであり,その概念だけを説明するのでは絶対に不十分だと思ったからです
 
  はじめに
目次
第1章  土とは何か
第2章  我々の生活と土
第3章  土の成り立ち
第4章  土の生物
第5章  土のでき方
第6章  二次鉱物の構造と性質
第7章  土壌有機物
第8章    土の物質吸着機能
第9章    土の中の物質移動
第10章  土の性質の測定
第11章  土の分類
第12章  森林の土
第13章  畑の土
第14章  水田の土
第15章  土の劣化と修復
 
     
     
  古典文庫

古典的な研究論文を紹介します.授業や講演の資料として翻訳したものが中心です.

On the theory of excahnge adsorption in soils.
Gapon, E. N. (1933) Zhurnal Obshcheri Khimii 3, 144-152.
土の陽イオン交換選択性を表現する式にはいろいろなものがありますが,その中のひとつにGapon式というのがあります.合衆国の塩類土壌研究所では昔からカルシウム-ナトリウム交換反応特性を表すために使われています.そのほかにも多くのファンがいるのですが,Gapon式が導かれた根拠についてはほとんどどこにも書かれていません.原文がロシア語であることも影響していると思います.幸い英訳されたものが見つかりましたので,その前半部を翻訳したものです.
■ Quantitative analysis of radio caesium adsorption in soils.
Cremers, A., Elsaen, A., De Preter, P., Maes, A. (1988) Nature 247-249.
土がセシウムイオンを非常に強く吸着するということは古くから知られています.このことは日本では2011年の東日本大震災にともなう東京電力福島第一発電所の事故と放射性セシウムなどの漏洩およびそれに伴う土壌汚染を契機として有名になりました.この論文は,土の中でどのようなサイトがセシウムを選択的に吸着するのかとその程度を定量的に評価する方法について述べたものです.
■ Synthesis of imogolite: A tubular aluminium silicate polymer.
Farmer, V. C., Fraser, A. R., Tait, J. M. (1977) Journal of Chcemical Society Chemical Communications 1977, 462-463.
火山灰由来土壌にはイモゴライトという名前の極細の繊維状鉱物が含まれていることが多いです.この論文はそのイモゴライトを世界で初めて人工的に合成したことを報告したものです.このころ私も同じ研究をしていました.先を越されて胃を悪くしたのが私の思い出です.

 
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